1.目的がわかっているか?
部下を自立させるため
あなたは「部下を育てる目的は何ですか?」と聞かれて、答えることができるでしょうか。「仕事を覚えてもらわないと困るから」「上に育てろと言われたから」という正直な答えをお持ちの方もいるでしょう。普遍的な目的の一つは、「部下を自立させるため」です。部下があなたの指示のもと、自身の判断で業務が遂行できるようになること。当たり前のようで、これは簡単ではありません。
業務手順は覚えたが、ミスが多い、仕事が遅い、自信がないなどの課題が残ることがあります。こうなる原因の一つは「教えること」が目的になってしまっている場合です。仕事のやり方や手順を教えることが目的になると、それが自立してできるようになるためのサポートが不足しがちです。
会社は何を期待しているのか?
ぜひ考えていただきたいのは、「会社は”あなたに”何を期待しているのか?」「会社は”部下に”何を期待しているのか?」という点です。これによっては、育成の方針が変わります。今すぐに現場で働ける即戦力を求めているのか、全体をまとめられる新しいリーダーを求めているのか、現場の声を上にあげられるようになって欲しいのか、などなど。
もしあなたが経営者や管理職であるならば、期待することを明確に伝えることで、教える社員と教わる社員の迷いを、共に減らすことに繋がります。
自分のため、社会のためという発想
わたしは部下育成を、労働という感覚でやろうとすることを勧めていません。部下を育てるための物理的、精神的な労力を考えると、それでは気持ちが続かないからです。口では「部下が自分の喜び」と言えますが、実際に忙しい業務の中で育成をしていくとそうも言っていられなくなります。
「部下育成=労働、自分の役割」ではなく、「部下育成=自己成長、他者貢献」という発想も持つことをオススメします。最初のうちは、多少無理やりでも問題ありません。部下を育てることで、自分自身も成長できる、評価が得られる、他の従業員も助かる、会社のためにもなるといったようにです。本当にそうかよりも、あなた自身が納得できる目的を持つことが大切なのです。
2.目標が決まっているか?
達成度がわかるゴールを設定する
これは、部下に設定させる目標とは違います。教える側、つまりあなたが何をゴールに指導をしていくのかです。「一通り、仕事を覚えさせる」ではいけません。具体的に何ができるようになったらOKなのかを、明確にするのです。
目標をリスト化、数値化・具体化する
目標の立て方は、シンプルなものから複雑なものまであります。まずは、大きいものから小さいものまで、リストアップするといいでしょう。次に数値化・具体化をしていきます。例えば、「メールの返信を早めできる」ではなく「メールの返信は24時間以内にする」、「毎月5件の受注を得る」ではなく「毎月5件(新規2件、継続3件)の受注を得る」といったように、数値化・具体化をしてください。
目標には優先度と難易度がある
リストアップしたからといって、全てをやるわけではありません。現実的に考えて、優先的に覚えて欲しい仕事もあれば、難易度的にすぐには難しいものもあるからです。実際には、次の項目の「期間」や「育成時間」によって、目標は変わってきます。この判断は、部下一人ではできませんので、教える側が責任を持って決めてあげることが大切です。
3.期間が決まっているか?
育成期間を長すぎず、短すぎず
どれぐらいの期間で、どこまで育てるのかを決めましょう。本来は会社によって決めてあることが理想ですが、曖昧になっている場合があります。自立するまで育てるとしても、部下育成も一つのプロジェクト。期間を明確に決めることで、順調に進んでいるのか、計画に無理があったのかなどを後から振り返ることができます。
部下育成は、今回のためだけにやるのではありません。二人目三人目の育成のときの前例になるからです。何も決めずに、何も想定せずに育成を始めると、何も残りません。
目標と育成期間のシミュレーションをする
目標としている育成リストを見て、シミュレーションをしましょう。実際の期間(3ヶ月、半年、1年など)とその期間中に目標のどこまでを達成したいのかを決めます。ここでは、大まかに、最初の1ヶ月でこれぐらい、3ヶ月目まででこれぐらいと希望的観測で立てればOKです。
この段階で、目標と期間に乖離がある、つまり現実的でなければ既に失敗が目に見えています。かといって、余裕がありすぎて、ダラダラ育成期間を長引かせてもいけません。現実的な期間を決めるようにしましょう。
4.確保できる育成の時間はどれだけか?
1時間もムダにできない
期間は決まっていますが、その期間中ずっと指導できるわけではありません。自分の仕事もしながら、部下の育成をする方も多いはずです。本当にご自身がどれだけの時間を割くことができるのか、計算して見てください。1日にどれだけの時間を割けるでしょうか?まとまった時間だけとは限りません。合わせると30分でしょうか?1時間でしょうか?
例えば、育成期間が6ヶ月間だとします。期間中、直接関わる日数が100日。1日30分だとすると、、、3000分(50時間)です。6ヶ月間と考えると、時間があるように感じます。50時間と考えると、時間が限られていることに気づくはずです。1時間もムダにできません。あなたの場合は、どれだけの時間が確保できそうでしょうか?ぜひ計算して見てください。
5.部下の事前情報を把握できているか?
部下のことをよく知るには
事前情報を把握することは、指導をする上で重要な準備の一つです。相手をよく知り、関係性の質を高め、育成効果を高めるためです。人間性や性格はもちろん、興味のあること、今後のキャリアの希望、仕事の悩みなど、全てが重要な情報です。かといって、あまりプライベートな内容を突っ込む必要はありません。セクハラ・パワハラなんてことになりかねませんので。
把握の仕方は2つです。ひとつは、既に知っている人に聞く。新人であれば、採用担当者などに聞くのもいいでしょう。他の部署からの異動であれば、元上司に確認するなど。もうひとつは、直接会ってから自分で収集する。関わるようになってから、直接指導が始まるまでの数日(数時間)の間に、コミュニケーションを取りながら把握していきます。
先入観を持たず、ジャッジもしない
注意すべきは、先入観を持ちすぎないこと。ポジティブな情報も、ネガティブな情報も客観的に受け止めるようにします。安易に人をジャッジしたり決めつけることは、指導者として視野が狭い行為です。「人の話を最後まで聞かないやつだな・・・」ではなく、「人の話を最後まで聞いていないように(自分が)感じたな・・・」と考えるといいでしょう。一歩引いて、客観的に見つめるといいでしょう。落ち着いて判断するトレーニングだと思ってください。
6.協力者はいるか?
部下は一人で育てない
子どもを育てるのは親だけでしょうか?そんなことはありませんね。学校の先生であったり、親戚のおじさんだったり、先輩だったり、友達だったりします。人との関わりの中で、そして、身を置く環境の中で育っていくものです。部下を育てるのも同じです。自分一人で育てるわけではありません。部下を育てるということに責任を持ちます。だからといって、他者を頼ってはいけないといことではありません。あなたの周りにいる人や環境をうまく活用することも大切です。
誰にも相談できない状況は避ける
育成に困ったときや壁にぶち当たったときに、相談にのってくれる人は周りにいるでしょうか?あなたの悩みを聞いた上で、客観的に意見や考えをくれる存在です。真面目な方ほど、一人で悶々と悩んでしまいます。思い悩んだ状態で、部下育成をするのはトラブルの元です。部下のためにも、あなた自身のためにも、相談できる協力者を見つけましょう。
7.教え方の基本がわかっているか?
やり方を説明する=教えるではない
部下育成するにも、基本があります。例えば、人としての関係性を築く、現状を確認する、指導する内容の目的や全体像を伝える、お手本を見せる、注意点を伝える、やってもらいフィードバックする、問題が起きたときの対処を伝える、改めて確認をする、など。間違っても『やり方を説明する=教える』ではないのです。基本を無視した指導は、トラブルに繋がるので注意です。
教え方の本を読む
教え方について学んだことのない方は、まずは教え方の本を読んで見てください。あなたが悩むであろう大概のことは、先人が解決しています。もしあなたが、初めて部下を持つのであれば、どんなことで悩むのかを先取りできます。
本を読むことで、失敗しないということではありません。教える側も失敗しながら学んでいきます。大きな失敗を防ぐこと、失敗してもすぐリカバーできるようにするための準備なのです。
8.自己分析できているか?
過去の自分の悩みや気づきは、人材育成における教材
自分が部下のキャリアだった頃にどんなことを考えていたでしょうか?どのような失敗をして、何に不安を感じていたでしょうか?考え方や働き方はどう変わったでしょうか?このようなことを振り返って言葉にします。部下育成が上手な人は、自分の経験を言葉にして伝えることに長けています。部下が完璧でないように、自分自身も完璧ではなかったわけです。ぜひ、棚卸しして見てください。過去の自分の悩みや気づきは、人材育成における素晴らしい教材になります。
性格分析をする
自分の性格やコミュニケーションの癖を把握するといいでしょう。お一人で即できる方法としてエゴグラムがあります。性格分析の手法の一つです。エゴグラムと検索すれば、すぐ診断できるサイトが見つかるはずです。人は余裕がないときに、素の自分が出るものです。ご自身の性格を把握するにはいいツールとなるでしょう。
9.自分の仕事はできているか?
自分の仕事を80%の力で成果を出す
新人の頃は100%の力を注いていた仕事も、スキルやパフォーマンスが高まるにつれ、80%の力でも同じ成果が出せるようになります。80%の力で仕事をするのは、手を抜いている訳ではありません。自己を高めた結果、20%の余力が残せるようになっただけです。そして、その20%を部下育成のために使うのです。
もし、あなたが現在の自分の仕事を、100%の力を注がないとできないのであれば、部下を育成する余地がありません。オーバーワークになり、自分の仕事に支障をきたします。80%の力でも成果が出せるように、自己を高めるに尽きます。
部下を育成する人は、自己を育成できる人
自分を変えられない人が、他者を変えることはできるでしょうか? 自分と向き合えない人が、他者を変えることはできるでしょうか? 自分の成長を辞めてしまった人が、他者を変えることはできるでしょうか? ここに答えがあります。部下を育成する人は、自己を育成できる人です。
10.心に余裕があるか?
自分の心の状態は無視できない
私たちはロボットではありませんので、自分の心の状態を無視することはできません。親子関係、パートナーとの関係、実家のこと、介護のこと、お金のこと、近所づきあいのこと、様々なことが私たちの心に影響を及ぼします。仕事とプライベートは完全に分けて考えられる人は、実際にはそういません。プライベートはぐちゃぐちゃだけど、仕事は絶好調という強いリーダーさんもいらっしゃいますが、少数派です。
自分の心をマネジメントする
ストレスが溜まりすぎると、人は正常な判断ができません。過剰に怒り過ぎてしまったり、自分を責めて落ち込み過ぎたり。自分の心をマネジメントする方法や考え方を学ぶといいでしょう。日誌を書く、コーチをつける、ヨガや呼吸法を学ぶ、深呼吸をするなど、方法は様々です。ご自身にあうやり方を探して見てください。